(15)デッドデッドレコニングの品質向上

GNSSの受信ができない(または悪い)場所を補完するためにIMUを使用するデッドレコニング(dead reckoning)を使用していますが、安価なIMUではその性能が悪いです。その改善方法を検討しました。

観測された位置姿勢データで作成された点群。

高速道路の高架下、防音壁で囲まれた道路はGNSS受信状況が悪く、GNSS/IMUで計算された位置姿勢データの品質が悪い。

水平位置、高さ位置もガタガタしているうえ、ミス測位で数m規模の大きな段差が発生する。さらには、信号や渋滞待ちをすると今度は徐々にエラーが蓄積していき、扱いにくいものとなる。このような場所では2-5m程度の位置ずれ(正規分布しないので精度とはいわない?)となりました。

 性能の良いIMUや車速信号を組み合わせたシステムではあまり問題にならないが、簡易MMSにとっては死活問題です。

データのガタガタや静止中のドリフトを機械的に修正するアルゴリズムを開発しました。

(14)色付き点群

点群にカメラで色を付けます。

一般的なMMSでは、ジオコーティング後の点群データに時刻同期されたカメラ画像から色を抜き取り着色すると思います。レーザと同じ視野角のカメラ(または複数のカメラ)を用いて、オクルージョンを考慮した色付けが必要になります。

 

ここでは作業の迅速性を第一に簡便な方法で着色することを検討しました。

①魚眼レンズをLidarセンサーのトップに固定し、半球上の画像を取得します。

②Lidar点群はスキャナー座標の状態でカメラ画像より着色します。(リアルタイム処理)

③その後、色付き点群をジオコーディングし、地図座標へ変換します。

 

 

そのために、

a) カメラやレンズの選定、映像配信方法 (GNSS受信状況が悪くならい低遅延のもの)

b) カメラとレーザの向きの調整(キャリブレーション)

c) 着色プログラムの作成、ジオコーディングプログラムの改修

d) 最終的には躯体の設計を行います

簡易MMSの点群を魚眼カメラで着色しました。 レーザ点群を先にカメラで着色し、その後GNSS/IMUでジオコーディング(地図化)しています。処理はリアルタイムに処理が行われるため、すぐにカラー化された点群データを利用できます。


(13)システム完成

 

システムが完成しました。

製品:MMS N-Quick (Basic)

   Lidar: Velodyne VLP-16

      GNSS/IMU:Septentrio AsteRx-I

      PC:Intel NUC (Windos OS)

  

走行距離も2000kmを越えて、安定動作を確認できました。


(12)雨天

ケースをシーリングで防水加工しましたので、雨の日に計測してみました(使用したのはVLP-16)。

下の図は路面が水たまり(水浸し)の状態の計測データです。路面に注目すると、アスファルトのリターンがほとんどなく、道路標示(白線)だけが取得されました。一方、建物の壁面や信号機や電柱は通常通りしっかり計測できました。

心配していた雨滴を計測したノイズ点はほとんどありませんでした。

 

雨天の計測メリットは思いつきませんが、取り外しの回数が減るので楽になります。


(11)検証

位置精度の検証として、車線分離用のコーンポストや歩道のガードパイプを実測しました。

 

いろいろと点検していますが、GNSS受信状況が良い場所(FIX解)はレベル500を満足しているといえます。 

今後、GNSS受信状況の悪い場所(Float解や非GNSSエリア)を今後検証したいと思います。


(10)外観

幾分コンパクトになりました。軽自動車に置いてもこのサイズです。

ケーブル(2本)を窓から車内に引き込んでいます。


(9)道路視認用の可視化方法

道路情報抽出に必要な、道路標示(白線)、路肩位置、道路標識を見やすくし、三次元図化を楽にする工夫を考案します。

 

<一般的な方法>

 道路標示:通常は写真の色を利用するが、車両の少ない夜間の計測も多いので反射強度が有効です。ただし、標高変化も見たい場合が

      多いので、いちいち着色を切り替える必要がありました。

 路肩位置:標高段彩や陰影処理、エッジ抽出などを工夫していますが、山地や高架などの高低差がある道路はカラーテーブルの変更に

      手間がかかります。

 障害物:樹木やトンネル天井、周辺の建物が作業者の見通しを妨げる。できることなら自動で消えてほしい。

 道路標識:路面の作業時の障害物はOFFにでき、構造物の図化作業時だけONにしたい。

 

 <提案方法>

 ①段彩(MMSの軌跡に対する比高)+反射強度(ある閾値以上)

 ②クラス分け:比高による区分(例えば、1m以上をON/OFFできるようにした)

 を点群データに適応します。車載レーザの点群と軌跡データがあれば自動処理で実施が可能です。

 点群閲覧時は、点群のRGB表示にし、比高1m以上のクラスを非表示/表示にして使います。

 

<自動処理>

 

MMS N-Quickはこの加工を標準とし、着色、クラス分けされたlas点群が自動で作成されます。


(8)リアルタイム変化抽出

計測データをリアルタイム・ジオコーディング処理し、過去のデータと比較することができます。

本システムの点群データはRTK-GNSS測位で直接座標付けされており、SLAMのようなマッチング作業やLoop closer処理をしなくても、点群の重合や差分計算を行うことができます。下の動画は計測中のシステム画面で、計測中に2時期データの重ね合わせや比較結果を確認できます。


(7)愛称 ”MMS N-Quick ”

本システムに名前がありませんでした。簡易なMMSでは”いい加減な”と思われてしまうので、簡単便利という気持ちを込めてQuickなMMSとしました。

”MMS NAKANIHON Quick SCAN”で、”MMS N-Quick”と愛称をつけました。 

 

丁度、当社のSLAM式のハンディーレーザが”NAKANIHON SLAM QUICK SCAN"でしたので、兄弟機のような位置付けと思っています。

 

(6)差分抽出

本システムでは計測するだけで地理座標の点群データが作成されます。

航空測量の場合は標高データの差分作成(ヒートマップ)を作成しますが、道路管理の場合は鉛直構造物の変化も見たいのでデプスマップの差分が有利です。点群ビューワ”Mierre”は任意視点からのデプスマップを作成できます。今回は、2時期の計測データから同一視点の疑似デプス画像を作成し、その比較の可視化(差分)を行っています。 

事例)2019年9月と10月に計測した道路沿いのデータです。どこが変わったか、わかりますか?

[差分画像]

計測データから作成したデプスマップの引き算結果です。新しく増えた場所は赤色、減った場所は青色になります。

バス停に注目すると、手前のバス停が無くなり、奥に移動したことが分かります。

 

このように簡易MMSにより複数回計測すれば二時期の変化を簡単に可視化することができます。

少し長いですが、Yutubeもご覧ください。


(5)試行錯誤

レーザー変更テスト

レーザ本数が32本の機材(VLP-32MR)に対応しました。

テスト機:(株)アルゴ

 

点密度や飛距離が増しました。高速道路での利用に有利だと思います。

 

同じVeldyneであればセンサーを選ぶことができます。


カメラ搭載

カメラをつけました。

[課題]

・カメラを付けるとGNSS受信状況が悪くなる。USB3.0のカメラはノイズが多いと聞いたことがあるが、ここまでとは。

・データ容量が多く、ハードディスクがいっぱいになる。


(4) 試作機2号

毎回のキャリブレーションが必要でしたので、IMUとレーザを同じ躯体に固定しました。機材の取り付けやすさはそのままになっています。

 

センサーの角度は約30度で、道路面だけでなく、看板や配電線、建物を計測することに適しています。逆に前方が上がっているので、SLAM(または自動運転用)にはあまり向いていません。今回は地図を作るのが目的なのでこの角度を採用しています。

 

※周辺の車両がデータに写り込まないメリットがあります 


(3) 関連アルゴリズム開発

A. RTK-GNSS のFloat解からFix解への移行時のズレ修正

 市街地や森林地域ではRTK-GNSSでFIX解が得られずFloat解になることが多いです。簡易MMSではIMUを併用するのですぐに精度が悪くなることはありませんが、Float解の時間が長いと徐々に位置がずれていきます。衛星状況が良くなるとFIX解になり一気に精度が良くなります。

 

 Float解の区間を精度が悪いので使わない、というのは残念です。何とかして精度を向上させて使いたいと思います。

 

①Float-Fixギャップ修正法:

 FiX解に戻る際に蓄積誤差を持ったデータは一気に真値に変化します。その前後の位置変化を知ることで、Float解がどの程度ずれているかを把握できます。プログラムでは、品質が低下した時点(誤差発生時)までを誤差を案分して修正します。

 

②ループ・クローズ処理

 SLAMで利用される方法で、同じ地点を通過したデータ同士を比較して誤差を解消する方法です。始点‐終点一致する必要はありませんが、データ同士が重なっている必要があります。

 

左上(鳥瞰図):補正なし(屋根の下を通過後、Float解の経過時間に応じて誤差が蓄積し(赤線)、Fix解に戻った際に大きなズレが確認できる)

右上:(鳥瞰図)FLOAT-FIXギャップ補正あり(Float解の蓄積誤差が解消している)

左下(断面図):補正なし(立体駐車場のフロアがずれている)

右下(断面図):FLOAT-FIXギャップ補正あり

左(鳥瞰図):補正なし    図の左側がFloat解の部分で正しい位置(図の右側のFIX解の部分)からずれている            

右(鳥瞰図):FLOAT-FIXギャップ補正あり


B. 測地座標でのデータ整備

一般的に測量や土木で使用される成果は測量座標(平面直角座標〇系m、標高m)であり、GNSSで得られる測位成果(緯度、経度、楕円体高)から変換が必要です。本システムではリアルタイムに平面直角座標への変換、ジオイドモデル(国土地理院発行)による標高換算を行うので、成果をすぐに利用できます。下は計測データと街区基準点との比較結果。


C. リアルタイムジオコーディング

GNSS-IMUから出力される位置姿勢データ、レーザセンサーによる距離データを同期させて座標を計算します。通常はセンサーメーカーが提供するソフトを使用して後処理しますが、様々な機能を加えたいので自社でコードを開発しました。


D. キャリブレーションツール

点群のずれのパターンからレーザとIMUのずれが分かります。

水平に搭載した場合は、1コーナーを曲がる短い観測データから自動的に計算するツールができました。

垂直に搭載した場合は、1コーナーではうまくいかないので、特定の走行パターンを走ることで調整します。

(現在はIMUとレーザを固定したので、キャリブレーションの回数は激減しました。


E. データ処理、収録能力

(計測継続時間)

市販のレーザ計測システムには、計測時間に制限があるものや、データをハードディスクに保存する待ち時間が必要なものが多いです。そのようなシステムでは、時間を気にしながら作業し、データ書き出しのため度々作業を止める必要があります。

作成したシステムでは、演算された点群データはバックグラウンドで一定時間ごとにハードディスクに保存されます。そのため、何時間でも計測し続けることが可能です。

 

(ループ計測不要)

SLAM式ではないのでドリフト誤差軽減のloop closerは必要ありません。好きな場所でスタートし、好きな場所で終了することができます。また、複数の計測データの調整も必要ありません。必要な場所を走行するだけでデータ追加や変化抽出が可能です。(ただし、GNSS受信状況が悪い場所は精度向上のため別途処理が必要です)

(データ処理時間)

通常、レーザデバイス、GNSS、 IMUのデータはシステム専用のフォーマットに個別に保存されます。私たちのシステムはデバイスからTCP/IPやUSBケーブルから送られてくる情報を直接利用し、即座にジオコーディングやジオイド補正が可能です。そのため、レーザデバイスから送られてくる大量のパケットデータとRTK-GNSS/IMUデータを遅延なく合成し、計測直後(計測中でも)に点群を利用できるようにしています。


(2) 試作機1号

SLAMによるリアルタイム点群は、時間と共に位置精度が低下するドリフト誤差がありました。もちろん、LoopクローズやGNSSによる補正を行いますが、手間と時間が必要です。

 

走れば終わりというものではありません。

 

 

 

そこで、航空レーザ測量のようなGNSS/IMUによるジオコーディングに、少しだけSLAMの要素があるのがベストだと判断しました。

車体による蹴られを防ぐため、金具で角度をつけました。

カメラは前方を撮る様にして、IMUの上に取り付けました


(1)開発スタート

はじめはここからスターしました。

SLAMとGNSSでなんとかしようと考えていました。

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